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Scratch Dog 事件 ~男4人の不幸な暁~


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「待てぇ、そこのお前!お前だよこの野郎!」

一瞬聞いただけで、ただごとではないとわかる日本語の怒声は、

あっという間に大音量のEDMにかき消されてしまいました。

真っ暗闇の中、出鱈目にフラッシュライトが光るだけのフロアでは、

周りで踊っている人間の動きがコマ送りでしか見えませんが、

〝まっちゃん〟が何かを追いかけて闇の中に消えて行く後ろ姿はコマ送りで見えていま

した。

しばらくすると、〝まっちゃん〟はコーフン醒めやらぬ様子で僕らの席へ戻ってきたので、理由を聞くと、「いや、あの女がいたんすよ」と苦々しげに、席に置いてあったタイウィスキーのコーラ割りを一気に呷った。

 

2010年前後、僕らはアソーク近くの『Windsor Suites Hotelの地下にあるクラブ

『Scratch Dog』によく遊びに来ていました。

僕はクラブなんて柄じゃあないんですが、時々バンコクで合流していた職場の後輩の

〝まっちゃん〟と〝西やん〟の二人がクラブ好きだったので、よくクラブにもつき合っ

たのだが、彼らが一番好きな店がここだったのです。

場所柄、店をはねたゴゴ嬢がよく来るのと、〝ナナディスコ〟みたいにファランのおじ

さんおばさんがうろうろしたりもしていないところが良かったのでしょう。

お酒ががっつり飲めるので僕も好きでしたw

しかも、珍しく今日は隣の席のパッと見清楚な感じのタイ人女性(ゴゴ嬢ではなさそ

う)が、酔っ払ってエロいオーラを明らかに僕に向けて発散しており、

かなりドキドキしていたのです。

 

そこへ、〝まっちゃん〟が急に怒り出したので、ちょっと面食らっていました。

(面倒臭いなあ、珍しく上手く行きそうなのに……)

そう思った次の瞬間、〝まっちゃん〟は獲物を狩る肉食獣のような俊敏さで人込みの中

に身を躍らせて行ったのだった。

「捕まえたぞ、この野郎!」

彼が首根っこを掴んで引きずってきたのは、白いノースリーブのドレス姿の金髪女性だ

った──。

 

 

「ゴーゴーさん、オレ、やられちゃいましたよ」

意気消沈した〝まっちゃん〟から電話がかかってきたのは、昨日の昼のことだ。

ホテルの部屋に連れ込んだ女がこん睡強盗だったらしい。

目が覚めると、貴重品ボックスの中にいれていた現金数十万円がなくなっており、

デジカメ、I-pod、お気に入りのTシャツも何点かなくなっていたという。

前の晩に『Scratch Dog』でナンパした女を部屋に連れて帰ってから、いつの間にか意識

を亡くしており、「飲み物に一服盛られたかも知れない」とのことでした。

「クラブにいるとき、いつの間にか彼女の足元にオレのカバンがあった瞬間があって、

変だな、とは思っていたんですけどねえ。まさか貴重品ボックスがいかれるなんて……」

「ホテルはIDチェックしたんでしょ?」と聞くと、

「聞いてみます」と言って電話が切れ、しばらくしてさらに沈んだ声で電話がかかって

きた。「あいつ、……男でした。」

慰める言葉もありません。

 

 

時を戻そう。

『Scratch Dog』の入り口レセプション。

ここはスタッフ2名ほどが入場の手続きをしてくれる横で、7~8人のスタッフが何も

せずにニヤニヤと客を冷やかす場所だ。

少し奥まった席でスタッフから事情聴取されているLB。

その間を3人ほどのスタッフに遮られて、僕、まっちゃん、西やんが並んで座らされて

いた。なぜ、壁を作られているのかというと、

奥の席で「私は何も知らない」と涙ながらに無罪を訴えているっぽいLBに、

まっちゃんが、「しらばっくれてんじゃねえぞ、ボケが!」と横から罵詈雑言を浴びせ

るからです。

西やんは最初、何が起こったのか全く知らず、自分のナンパに精を出していたので、ま

っちゃんから「薄情者」呼ばわりされるというとばっちりを受けています。

僕も初めて上手く行きそうだったナンパが不発に終わり。

僕らは3人とも不幸でした。

LBも入れてやると4人ですねw

 

そして明らかに事態はこの無能なスタッフどもの能力の範疇を超えていました。

そう、明らかに僕らは持て余されていたのです。

このままでは無罪放免だと思われたので、僕らは警察を呼ぶよう要求、

するとスタッフはあからさまに、しぶしぶ警察を呼びました。

 

しぶしぶやって来る警察。お前らもしぶしぶかい。

しぶしぶなので、あつかいもぞんざいです。

 

2台のピックアップの荷台に(駄洒落ではない)分乗させられ、

派出所みたいな場所で長々と待たされ、ようやく着いたルンピニ警察。

ここでもさんざん待たされたあげく、刑事みたいな人の取り調べを受けます。

……と言っても主に調べを受けていたのはLBで、最後にまっちゃんが確認で呼ばれた

ような感じでした。

それで、やっとひと段落ついたようです。

その後はまっちゃんのホテルで現場検証的なことをするみたいで、

僕と西やんは解放されました。

 

警察を出るとすっかり夜が明けていました。

まっちゃんは、盗られたものはみんな返してもらえたようです。

でもLBはほとんど罪に問われなかったらしい。なんでかな。