楽宮旅社(左)と『バンコク楽宮ホテル』
『バンコク楽宮ホテル』は1980年代、戦火の影響も甚だしいヤワラーの安宿街で、
娼婦たちと共生する貧乏旅行者たちの青春を描いた名作です。
すでに世に出ていた『深夜特急』とはまったく真逆のベクトルで、いたいけな若者たち
を阿漕な旅の世界へと誘ったことで知られています。
ストーリーはこんな感じです。
喧燥と異臭、猥雑の入り交じるバンコク・チャイナタウンのはずれに建つ楽宮旅社。一九八〇年、そこはラオス難民や娼婦や、マリファナと酒と倦怠の時を求めて淀む日本人若者の定宿でもあった。博打打ちの狂犬病氏、フリーライターのフグやん、ガイドの成島くん、ボランティア志願・鼻くん、ドラッグ中毒・九車(くぐるま)……日本の都会の人間関係を逃れ、戦闘の続くアジアの片隅にひっそりと息づく若者たちを描く話題作。
実際にヤワラーにあった『楽宮旅社』での生活がモデルになっているといいます。
当時、ヤワラーにはジュライホテルなど、日本人旅行者御用達の宿が何軒もあり、
沈没生活のメッカとなっていたそうです。
宿の内部の日本人社会には独特のヒエラルキーがあり、いかに見ていないことを見てき
たことのように吹聴できるかを、常に競いつつ、古株たちが覇権争いを繰り広げていた
とか、いないとか。
そんな閉鎖的な体質に皆嫌気がさして、ヤワラーは衰退していったのではないかと思わ
れます。旅行者のメッカはやがて世界的にカオサンエリアへと移って行きます。
まあ、とにかく、性病とか、ダニとか菌関係の話がえぐいです。
1発60バーツの冷気茶室で夜な夜な女を買い、屋台で安いメコンを呷る。
そんな日々に人は惹かれてしまうのかも知れません。
そんな一方で、ボランティアになって一発逆転のチャンスも狙えてしまう、
戦争という名のカオス。これにドラッグが絡んですべてがお祭り騒ぎです。
これはこれで十分に魅力的な〝旅〟のガイドなのではないでしょうか。
結局、最後には妄想の部分がどんどん肥大化してしまいますが、
まあ、収拾つかなくなっちゃったんでしょうね。
遠くヤワラーを偲んでみるのも良いかも知れません。