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ヤムのはなし


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食べ物があるとご機嫌♪ (13年)

 

 

ヤムは元Rainbow3のウェイターをしていたトムボーイです。

彼と知り合ったのは05年、たぶん彼は19歳ぐらい。

それまでにもRainbow3に入ったことは1、2回はあったと思いますが、まだ改装前で店の規模は閉店時の半分強ぐらい。当然ながらステージも小さく、いかんせんダンサーの少ない店でした。

入口のカーテンを開けて中を覗いていく客は10人中7~8人はかぶりを振って帰って行ってしまう、そんな感じ。

だから、僕が入ったのもとりあえずナナ全店コンプリートしとこうとか、そんなテキトーな理由からだったと思います。

店の隅の席で一人ハイネケンを飲んでいると声をかけてきたのがヤムでした。色黒で小柄、やや固太り、まん丸い目と団子鼻で間違っても美形ではありませんが、トムボーイ特有の妙な艶がありました。

声をかけてきた、とは言っても、ヤムは日本語も英語も喋れません。だから酔っぱらって乾杯でも仕掛けてきたんだと思います。Rainbow1や2で、声をかけてくるウェイトレスやウェイターはだいたい「女を指名しろ」か「ドリンクおごれ」しか言いませんから、とにかく斬新なアプローチでした。

しかも、一緒に飲んでいて自分のビールがなくなっても、どこからか自分で持ってくるのです。もちろん伝票を僕に押し付けることなんてありません。あげくの果てには僕のぶんのビールまでどこからか持ってくるのでした。

 

 

この夜の出来事が印象に残っていたので、数日後に再びナナプラザに行ったときにもR3に行ってみました。すると、ウェイトレスの誕生日だということで店の中は一部無礼講状態となっていました。

店の片隅に酒やジュースのボトルと氷が置いてあるコーナーがあり、みんな勝手にドリンクを作って飲んでいるのです。素面で業務をこなし続ける真面目なスタッフがいる一方で、一部のスタッフは明らかに酩酊してフロアでふらふら踊ったりしていました。もちろんヤムも酔っぱらっていました。

勧められるままに何本かビールを空けると、ヤムが例のドリンクコーナーからグラスに入ったビールを二人分持ってきます。ここぞとばかりに知らないスタッフたちが僕の席に入れ替わり立ち替わり現れてはドリンクをたかります。

僕も楽しくなってきたので、際限なくビールやテキーラをふるまい続けました。ママやチーママはもちろん、カウンターの中のスタッフや入口にいるおじさんにも飲ませました。

「ヤムが使い物にならないからペイバーしなさい」ビッグファット・ママに言われてヤムを見ると、かなり泥酔しているようです。でも、こいつが働いているところ、見たことないんだけど。

それでも、仕方がないのでペイバーします。僕もたいがい酔っぱらったので、ホテルに帰ると言うと、ヤムは送っていく、と言ってついて来ました。かなり酔っぱらってるけど大丈夫かな、と思いつつ、ナナホテルの僕の部屋へ。

 

 

ふと、気が付くと、僕は服を着たままでベッドに倒れていました。部屋の電気は煌々とついています。時計を見ると6時──。

「うわぁ、やっちまった!」まったく無防備な状態で寝こけてしまったようです。誰に何を持って行かれてもおかしくありません。

しかし、横を見ると同じベッドの隅でヤムが大の字で寝ているではありませんか。

僕の財布は無造作にライティングデスクの上に放り出してありましたが、中身は無事なようです。トランクにはカメラやパソコンなどの貴重品が入っていましたが、それも何ともありません。ヤムも倒れこむようにして寝てしまったのでしょう。

 

それから、ヤムを中心にR3のスタッフとよく遊びに行くようになりました。その後何年か恒例となるボーリング飲みを教えてくれたのもヤムでした。店では何の仕事をしているのかよく分からない彼でしたが、遊びに行くときはまめに世話を焼いてくれました。

 

 

ヤムは怠け者で食い意地が張っていて、女好きで、しかも頭はあまり良くありません。

R3の仕事も1~2年で辞めてしまい、田舎のマハーサラーカムへ引っ込んでしまいました。それでもR3やR1の従業員たちにはなぜか不思議と人気があって、僕の顔を見るたびに「ヤムは元気?」と聞いてくるダンサーもいたほどです。

何年かしてからマハーサラーカムの彼の家を訪ねたことがあります。わりと立派な家で、自宅の一部をネットカフェにしようとしたみたいでパソコンが並んだ部屋がありました。でも、客が全く入っていなかったのでコケたんだと思います。

そのとき紹介されたのがミンという彼女です。大学を出たばかりですが男の子がいるシングルマザーでアンコールワットの彫刻のような美人でした。その後、ミンがバンコクで働いていた時期があり、ヤムもメッセンジャーなどをしていたようです。その時期はミンも交えてよくゴーゴーで飲みました。ヤムがゴーゴーバーに行きたがったからです。ミンはR3のチーママと仲が良いので、彼女をR3に置いてナナプラザの他の店をハシゴしたこともあります。

かつては固太りではあったものの少年ぽさがあったヤムでしたが、相変わらず怠けているくせに人一倍飲み食いはしているようで、会うたびに巨大化していました。今やすっかりデブのおばさんという風貌です。屋台で何か売っていそう。

 

その後、ヤムとミンはコンケーンへ引っ越して現在でもそこで暮らしているようです。

遊びに来い、とは言われているのですが、訪タイ期間は僕もゴーゴーめぐりでなかなか忙しく、実現していません。もう8年ぐらい会ってないなあ。