僕のタイともの一人に亀ちゃんという男がおりました。
そもそもは昔よく出入りしていたパーティで知り合いました。主催の人が一時期常連だった亀ちゃんを気に入っていて、僕に紹介してくれたんですよね。
おっさんを紹介されても、あまり嬉しくはないのですが、何で僕に彼を紹介してくれたのかというと、同年代だったことと酒好きなのでノリが似ているだろうと思われたようです。
そのパーティでは僕はどちらかというと若手で、同年代の人は少なかったんです。
それはいいとして、酒でのノリが同じと言われるのはちょっと心外。
亀ちゃんはけっこう危険なレベルの酒乱でした。酔うとかなり攻撃的になり、女性にも罵詈雑言を浴びせるのでパーティで出禁になっていたこともあります。
泥酔して朝方に帰ってきた亀ちゃんの上着の右ポケットには牛丼、左ポケットからはラーメンだったと思われる残飯がぎゅうぎゅう詰めになっていたという伝説もあります。
ある人は彼はシャブ中なのだと言いますが、そのへんのことは僕はわかりません。
でも、酒好きって酔っぱらっている不思議と気が合うもので、僕たちはけっこう仲良くやっていました。結局パーティ主催者のお眼鏡通りだったわけです。
そんな亀ちゃんもタイにハマっていた時期があって、僕も2、3度ゴーゴーに一緒したことがありました。
そして、あるとき会うと亀ちゃんはいきなりLB大好きおじさんになっていたのです。
「LB、いいよ~。女としても極上だし。オレ、もうフツーの女は興味ないわ~」
そんなことを言うのです。
「オレ、この前『Obsession』行ったんだけどよ、スゲーイイ女ばかりでなあ」
だから亀ちゃん、それ、〝女〟じゃないよ。
そんなことを言って止まる亀ちゃんではありません。僕は亀ちゃんに連れられるままに当時ナナプラザでたぶん唯一入ったことのなかった店『Obsession』に初めて入る羽目になったのです。
R2には何十回と行ってるし、R2の店頭の喫煙所で煙草を喫うことも多いので、隣の店前にたむろする『Obsession』の異形の美女たちは常々見てはいました。声をかけられ、油断して店に引きずり込まれそうになったことも一度や二度ではありません。
でも、いつの間にかけっこうな数のお客さんが出入りするようになってきているのにも気づいていました。
自分が興味ないのでちゃんと見てはいませんが、この頃はまずまずの人気店だったのではないでしょうか。
それでも自発的に入る気はまったくなく、亀ちゃんに連れられていたからこそ、渋々といった感じです。
一歩中へ入ると店は暗く広く感じました。奥の方にステージがあり、急な擂鉢状の観客席が取り巻くようなスタイル。客席が多いせいか全体的にがらんとしているように感じます。客の入りは4分~5分といったところか。
なんだろう、どこか普通のゴーゴーと雰囲気が違います。
雑然としているというか、なんか一体感の盛り上がりがないというか。
席に着くやいなや〝嬢〟が飛んできて僕の隣に滑り込むように座ります。
「ハロー~ げんきいぃぃ~」いきなり股間をもみしだくご挨拶。
「お~、元気ないねー」大きなお世話だ。来店早々オッ立てて来るか。
亀ちゃんはと見れば、小柄な亀ちゃんを取って食ってしまいそうな長身の嬢に覆いかぶさられてうっとりと満面の笑みです。これは放っておこう。
最初に襲いかかってきた〝嬢〟を追い払い、今一度呼吸を落ち着けて席に着きました。ウェイトレスにハイネケンを注文してステージ上の〝嬢〟たちを見定めようと眺めていると、ぴとっ …と肩に柔らかな、どこかひんやりとした冷たい重みを感じます。
見るといつ隣に来たのか、小柄な女性が小さな頭を僕の肩にもたせかけていました。
あ、〝女性〟じゃないですね。
それがジャスミンとの出会いでした。
(続く)