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よるのたび プノンペンナイト(4) 『Apocalypse now』の女


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民族衣装を着たカンボジア女性(本文とは全く関係ありません)

 

 

入口に「No drug , No wepon」とペンキで殴り書きしてしてあるバー。

(入口で武器チェックする店ってどんな店なんだろう?)

おそるおそる暗い階段を上がっていくと、店のドアは開け放たれていました。

入って行くと左手にバーカウンター、右側にはプールテーブルが3台ほどあり、それを取り囲むようにテーブルが並んでいます。広さはかなりあります。

見た感じバンコクでもよくあるようなアメリカンスタイルのバーでした。客はファランばかり4~5人といったところでしょうか。客なのか従業員なのか女のコが7~8人いて、女のコ同士おしゃべりしていたり、客のファランと玉を撞いていたり、思い思いに過ごしています。

 

僕は店内を横切ってテラスのテーブル席に落ち着きました。

後を追うように1人の女のコがやってきます。

「ハロー」

「こんにちは」

「何を飲みますか?」

「じゃあ、アンコールビアを」

女のコは一度カウンターのほうへ立ち去ると、アンコールビールの小瓶を手にして戻ってきました。

くせっ毛のショートカット、目はぱっちりとしたアーモンドアイ。少しエラが張った感じの猫科っぽい輪郭はタイ人にもよくいる顔です。ゴーゴー嬢だとあまり日本人が好むタイプではありませんが、僕はわりと好きです。

 

「名前は?」

「ナット」

「ここで働いているの?」

「時々手伝っているの」

服装はTシャツにジーンズのスカート。店員とも客ともつかない服装です。一見商売の女には見えないけど、ゴゴ嬢の普段着もこんな感じだしなあ。

 

とりあえず飲み物をおごってみます。ゴゴ嬢とのコミュニケーションもドリンクを与えるところからですし。

「何か飲む?」

「ありがとう」

ナットはにこっと口角を上げて再びカウンターのほうへ歩いていきました。

すぐにコーラらしき液体の入ったグラスを手に戻って来ます。

 

そして、飲みながらおたがいのことについて質問合戦。

ナットはふだんファランの客を主に相手にしているからか、英語が通じました。彼女が喋る英語もタイ人みたいな変な訛りがなく、かといってネイティブのように発音が良すぎたりもせずに聞き取りやすい言葉でした。

ナットは24歳。プノンペン郊外の出身で1人上京して知り合いの家で暮らしているそうです。週に何日かこのバーに来て、店を手伝ったりお客の相手をしてチップをもらっているのだとか。この店にはそういう女のコが何人もいるようです。

 

少し落ち着いた感じのお姉さん、という風情で、無駄なセクシーアピールや空回るハイテンションなどというものが一切ないナットに僕は次第に惹きつけられていきました。

しかし、こういう場所、こういうシチュエーションでいつもなら必ずあるはずの何かがないことに気がついたのは小一時間ほど話をして、それぞれが飲み物のお代わりもなくなりつつあった頃でした。

そう、いつもならあるはずの「アナタ~ホテル、イッショ、カエル~!」という話題にいつまでたってもならないのです。

(もしかしたら〝そういう女〟ではないのかも知れない……)

そんな疑念が僕の中に湧いてきました。他の女のコはどうしているかというと、ファランと一緒に飲んでいるコなどは、かなりひっついていて、ラブラブな雰囲気を出しています。しかし、それがナットの〝プロ判定〟の材料になるかというとそんなことはない。

(こっちから〝商談〟をもちかけるべき?でも違ったらものすごく怒られそうだし)

しばし熟考します……………………………………………………………………………………。

 

「ゴーゴーさん、大丈夫?」

そんなナットの声で我に返ると、心配そうに僕の顔を覗き込んでいる彼女。

テーブルの上にはビールの空きビンが数本。どうやらいつの間にかビールがすすみ過ぎて気を失ってしまったみたいです。もうお持ち帰りがどうとか言ってるコンディションではありません。

 

「大丈夫、大丈夫。ゴメン、寝ちゃったね」

ナットにお会計をしてもらって店を出ました。

帰りの道はまったく人気がなく、静まり返っていましたが、酔っぱらっていたせいかまったく物騒には感じませんでした。

(続く)

 

 

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