翌日から、僕は夜になるといそいそと『Apocalypse now』に通いつづけるようになりました。
そのたびにナットにコーラをおごり、僕はアンコールビアを飲み続けてへろへろになって帰る、というのを幾晩か繰り返しました。
とにかく話がちっとも進まないのです。
ナットとは世間話はそれなりに盛り上がるのですが、まったく艶っぽい展開にはなりません。もしかすると、連れ出してはいけないコなのかも知れません。
試しに一度、きいてみました。
「どこか遊びに行かない?」
すると、ナットは目を輝かせて言うのです。
「じゃあ、ディスコがいいな。みんなで行きたい!」
みんなで……まあ、いいか。
ナットと友達のお店の女のコ2人、計4人で徒歩10分ほどの場所にあるという〝ディスコ〟を訪ねます。バーから女のコたちをオフするための料金は一切取られませんでした。やっぱり従業員ってわけではないみたいです。
〝ディスコ〟はやはり『Apocalypse now』と同じような廃ビルみたいなボロボロのビルの3階にありました。
やっぱり看板も何も出ていなくて、灯りもほとんどなくて何も知らない人が見たら廃墟にしか見えません。店の入り口でけっこう厳重なボディチェックを受けます。
店内に入ると、ほとんど照明もない闇の中にみっちりと人がいました。
音楽はチャカチャカした演歌っぽい変な音楽です。タイのモーラムみたい。
そんな音楽にノリノリでみなさん盆踊りっぽい踊りに興じています。暗くてよくわかりませんが、ほとんどカンボジアの人なのではないでしょうか。
ナットと友達も楽しそうに踊っています。僕はそれを肴にビールを飲むのみでした。
途中、ちょっとだけ調子に乗ってナットと踊ってしまいましたけど。
(これ、たぶん放っておいたらオールなんだろうなあ)
ビール飲みっぱなしではとてもじゃないけど朝まで付き合えないので、僕だけ適当なところで切り上げて、ホテルへ帰りました。
とある昼間、バイタクのブンくんが涼み小屋へ連れて行ってくれました。
街から少し離れた郊外の池のほとりに葉っぱで屋根を葺いた掘っ立て小屋がいくつも並んでいる場所があります。そこでカンボジアの人たちは〝海の家〟みたいにそこで涼みながらハンモックで昼寝をしたり、ゆでたトウモロコシやフィリピンのバロットみたいな雛入りゆで卵を食べたりしてゆっくり過ごすのです。
ここは以前にも何回かブンくんに連れてきてもらっていました。
以前来たときは池であるはずの場所は干上がっていて単に枯草だらけの窪地でしたが、今回は雨季なのでちゃんと池になっています。
「あの店のコってできないのかなあ」
僕はブンくんにここ数日ずっともやもやしていたことを聞いてみました。
「その店のことは僕はわかりません」ブンくんはとうもろこしを齧りながら真顔で答えます。「カンボジアの普通の女のコは真面目なコが多いよ」
「そんなこと言ったら東南アジアどこでもそうでしょ」
ぷちぷちと弾けるとうもろこしの粒の感触にうっとりしながら僕は反論しました。
日本の縁日のとうもろこしはどうでもいいんですけど、ここで食べるとうもろこしは美味いんです。粒が小さいけどもちもちしています。
ふと、ブンくんが思いついたように言います。
「一緒に旅行とか行けば?」
(続く)
↓ぽちっとお願いします