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よるのたび プノンペンナイト(7)想定の斜め上をいく結末


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当時はどこか寂れた感じのリゾートでした。

 

 

夜、夕飯がてら近くを二人で散策しました。

ポツンポツンとゲストハウスや飲食店がある以外、周囲は閑散としていました。

夏休みというにはちょっと遅いシーズンなので、観光客も少なめなようです。

一軒のレストランに入り、僕はハンバーガー、ナットは焼きそばのような麺で夕食。僕はビール、ナットは相変わらずコーラ。

何となくどちらも言葉少なに晩御飯を食べ終え、再び散策に出かけます。

浜辺で肩を並べて歩いていると、ナットの手と僕の手が触れました。

ここだ!、とばかりにすかさずナットの手を掴んで無理くり手つなぎ状態に持ち込む。しかし、ナットは別にびっくりした様子もなく、僕の指に指を絡めてきます。

恋人つなぎじゃん! 不覚にも心臓がばくばくしてしまう僕です。中学生か。

 

浜辺は真っ暗でしたがバカなファランカップルが波打ち際でじゃれていました。

暗いので海はキレイなのかどうかよくわかりませんが、砂浜はとにかく白い。

そして空には満点の星が。あんな廃墟みたいなビルだらけのプノンペンでも、明るくて星は見えないんですね。

「すっげー星!」思わず声を出して驚いてしまった僕を例のアルカイックスマイルをたたえながら優しく見つめるナット──。い~いムードやん。

もしかしたら、今夜こそイケる……?

 

しかし、手をつないだまま仲良くゲストハウスへ戻ってくると、ナットは

「じゃあ、また明日ね」と、言うとササっと自分の部屋へ引っ込んでいってしまったのでした。

リゾートの夜は一人だと長いです。

ゲストハウスの部屋にはテレビがありません。

いちおう断っておくとこの時代はwifiもスマホもまだないです。

僕はずっと天井の蛍光灯の中にもぐりこんだトッケイがもぞもぞと動く姿を観察しつつ夜を過ごしたのでした。

 

翌朝──。

僕が目を覚ましてゲストハウスのカフェへ行くと、すでにナットが朝ごはんを食べていました。フツーのパンと卵のアメリカンブレクファストではなくて、野菜の炒めたのや焼き豚やゆで卵などいろいろ盛り合わせた皿を食べています。

おそらく従業員のおじさんに特注したカンボジア飯なのでしょう。

なかなか美味そうなのですが、ナットはそうでもない表情でのろのろと食べ物を口へ運んでいます。どこか表情が暗い。

「どうかしたの?」

まさか、僕が夜這いに行くのを待っていたとか……それはないか。

 

「実家から電話があってね。妹が行方不明らしいの」

「えッ、それで?」

「朝帰りなんかするコじゃないから、親は心配してるの。だから……私、すぐに帰らないと」

 

ええ~~っ……

朝食を終えるとナットは朝発のバスに乗ってプノンペンへ戻って行きました。

僕も彼女がいないととくにすることもないので、お昼のバスで戻りました。

こうして思いがけない形でお泊り旅は終了したのでした。

 

万が一、一緒にいるのが嫌になったのだとしても「妹が行方不明」っていうのは言い訳としては斬新すぎると思うんですよ。

でも、カンボジアだったらそれがタイでよく言われるところの「お父さんが病気で」とか「弟が事故で」っていうのと同じテンションなのかも知れません。

まあ、お金は請求されてないけど。

その後「Apocalypse now」にも何度か行きましたが、ナットには会えませんでした。

結局シアヌークビルで別れたときが最後になったのです。

 

何度か書いていますが、最初にカンボジアを訪れた90年代後半、まだ内戦の名残りが色濃く残っていました。

着いて早々幹部クラスの警官たちにたかられかけたり、夜は物騒で出歩けなかったり。他の国でも旅行者相手にひともうけしてやろうという悪いやつはどこでもいますが、この国の悪いやつはそんな可愛いもんじゃなくてシンプルに悪い。

こいつ絶対人を殺したことある──みたいなのがごろごろそのへんを歩いていました。

その頃にくらべれば、当時もかなりましにはなっていたはずなんですけどね。

もしかすると妹が行方不明だというのも嘘ではなかったのかも知れません。

今となっては確かめようもないですけど。

だから、本当に行方不明になってしまったのかも知れません。

 

 

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