バンコクでの日々は相変わらずシャーデーと一緒でした。
彼女は僕のホテルに泊まる日もあれば、自分の家に帰って行く日もありました。
昼間は何だかんだでだいたい一緒にいたと思います。
一緒にいるときはもちろん僕がすべてお金を出しましたが、それ以外にはまったくお金はかかりませんでした。
そもそも一番最初にペイバーして過ごした夜を除けば彼女にお金を渡したことはありません。
ゴーゴーバーで呼び込みの仕事をしているとき、お客さんにペイバーされて何人かで遊びにいったり、食事をしたりということはあったようですが、ホテルに行くだけのためにペイバーされたことはあまりないようです。
最初に会った夜、僕が連れに用事があって彼が女のコとしけ込んだパッポンの連れ込みホテルをシャーデーを連れて訪ねたことがあります。
そのとき彼女は終始強張った表情をして固くなっていました。あとで理由を聞いたら、
「あなたが私をあそこに連れ込むのかと思った。私、ああいうところは好きじゃないの」なんて言っていたものです。
その後、一緒にナナホテルへ行ってるんですから、たいして違わないだろうって話なんですけど。
そんな感じで、どこか普通のゴゴ嬢とは違うシャーデーでしたが、お金がかからないと思って油断しているとたまにえらいしっぺ返しを食うこともあります。
サイアムあたりでショッピングをしていたときのことです。
僕は日本で女性の友人に買い物を頼まれていました。ホントにただの女友達で、海外でしか売っていないコスメ用品があったら買ってきてくれと言われていたのです。
「これってどこにあるかな?」
僕は軽い気持ちで女友達から預かった雑誌のコピーをシャーデーに見せました。
シャーデーはまじまじとコピーを見つめて何やら考え込んでいます。
コピーをひたすら見つめるだけで、うんともすんとも言わない彼女がちょっと気になりましたが、たまたま目当ての商品が売っていそうなドラッグストアがあったので、僕は彼女から雑誌のコピーを受け取ると、店に見に行きました。
店員にコピーを見せると、品物のところへ案内してくれました。
無事に目的の品を買って戻ったのですが、さっきの場所にシャーデーの姿がありません。
あれ?僕が店に入ったときはついてこなかったよな。
トイレかな? 慌てて周囲を探すと2~3軒離れたところにあるブランドショップで発見しました。
なんで黙って行っちゃうんだよ?……と怒ろうとしたのですが、彼女のただならぬ気配を感じて思わず言葉を飲み込んでしまいました。
表情があまりに強張っているのです。あのパッポンの連れ込みホテルのときみたいに。
「どうしたの?」と尋ねると強張った表情のまま、手にしたジーンズを投げつけるように乱暴に僕によこします。
「!」
買えということでしょうか。丸まった状態で渡されたジーンズを広げて値札のタグを見て僕は腰が抜けそうになりました。
「ご、5000バーツぅ?」
そんなにジーンズって高いの? 5000ってゴーゴーのウェイトレスとかの月給と同じぐらいの値段じゃん。
なんでそんな高価なジーンズを彼女に買ってやらなければならないのか?くわえて彼女の態度に僕もたいがいカチンときました。しかしシャーデーは強張った表情のまま、こちらの意見には一切耳をかさないぞ、とでも言いたそうな断固たる態度です。
(どういうことだろう?これは。彼女は何に怒っているのだろうか)
思い返してもさっき雑誌のコピーを見せるまでは何事もなかったはず。
もしかして、僕が日本にいる彼女にお土産を買っていると勘違いしたのでしょうか。そしてそれに張り合おうとさらに高価なものを要求している……とか。
それにしてもキレるの早すぎです。
いちおう「さっきのコスメは友達に頼まれて買ったんだよ」と説明してみます。しかしまったく反応なし。聞く耳をもたない感じです。
僕はその5000バーツのジーンズを買うしかありませんでした。
会計を終えてラッピングされた品物を渡すとようやく彼女の表情が緩みます。
それでも口角から少し力が抜けた程度ですが。
完全に彼女がいつもの状態に戻るまでにはそれからさらに2~3時間を要しました。
意外とめんどくさい。
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