毎日なんとなく一緒にいるうちに、シャーデーに関するいろいろなことも分かってきました。
一度、カオサンの一本向こうのバス通りをぶらぶらしていたときに、急にシャーデーが「買い物がある」と言い出したことがあります。
彼女が入っていった店について行ってみると、町工場で使うような業務用の機材か何かの専門店といった感じのモノタロウちっくな店で、店内には商品がディスプレイされていることもなく、そこらじゅうに段ボールが積まれていました。いかにも普通の客は冷やかしにも来ないオーラが出ています。
段ボールに埋まりかけたショーケースの中にはガラス製の実験器具のようなものや、何かを計測するような秤のような器具が入っていました。
シャーデーは慣れた様子で店内のそこここに行っては正体不明の器具を手に取っては確認しているようでした。やがて「もういいよ、出ましょ」と、何も買うことなく店を出ました。
「仕事で必要なの」とシャーデーは言います。
「仕事って何をしているの?」と聞くと、工場の仕事だといいます。
決められた期間、バングラデシュへ行ってそこの工場で働いているようですが。具体的に何をしているのかは二人とも英語のボキャブラリーがないのでよくわかりません。
彼女はあまりバングラデシュは好きではないそうです。
「バングラ人は嫌い。どいつもこいつも隙あらば口説いてくるの」
出た、イスラムあるある。自分の国の女性は戒律が厳しくて遊べないから異教徒の女性と見れば片っ端から声をかけて口説くというやつです。
彼らにとって外国人女性であれば年齢や容姿などあまりおかまいなしに口説くのが常ですから若くてナイスバディのシャーデーであれば、引く手あまたのはず。
いろいろ悪いモノが溜まりきったバングラの男たちが股間を大きくしながら群がるさまが手に取るように想像できます。
「じゃあ、めちゃめちゃモテるんだ?いいじゃない」多少皮肉をこめて言うと、意外にも彼女は片側の口角を少しあげてニッとしながら、こんなセリフを吐くのでした。
「まあね、私だっていつもいいコってわけじゃないのよ」
こんなちょっとカッコいい一面もあるシャーデーでした。
彼女の家の前まで連れて行ってもらったこともありました。
「今日は家に帰るね」
とある日の夕方、帰る、といいつつ、いつになくシャーデーが上機嫌でした。
「何かあったの?」
あまりに彼女の機嫌がいいので思わず聞いてしまいました。
すると、「今日はお母さんが夕食にカオラオを作ってくれるんだって。私、カオラオ超好き♡」と言うのです。
カオラオと言われても僕はさっぱりわからないので「カオラオって何?」と聞いてみますが、彼女も上手く説明できません。
しかし、かなりの好物らしい。暇なのでタクシーで家に帰る彼女を送っていくことにしました。
彼女の家はカオサンからタクシーで十数分ほど、ツアー客ご用達のホテルなんかも建っているバンコクのわりと真ん中あたりにありました。
ごちゃごちゃした下町っぽい古いソイの中に彼女の家族が住んでいるというアパートがありました。
ガードマンがいるわけでもなく、高級な感じはあまりしませんが、まあまあ立派なつくりの建物です。
「じゃあね、ありがとう。あなたを連れて帰ると家族がびっくりするから、ここでね」と、家までついていくのをやんわりと拒否られてしまいました。
別に上がり込むつもりはありませんでしたが、そういうふうに言われると何だか寂しいものです。
でも、これまでお宅訪問したゴゴ嬢たちの家といえば、スクンビットの奥のほうのソイにあるアパートに出稼ぎ仲間や親戚などと住んでいるパターンしか知らなかったので、なんか新鮮でした。
こんなふうにほとんどシャーデーと一緒に過ごしたバンコクでの2週間でしたが、楽しい日々はあっという間に過ぎ去り、そろそろ移動する日がやってきました。
(続く)
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