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よるのたび コルカタナイト(1)タクシードライバーたちとの闘い


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ネタージースバース・チャンドラ・ボース空港(コルカタ)

 

 

02年に沖縄からイスタンブールまで、なるべく地べたを行く旅をしています。

 

シンガポールからインドのコルカタまで、飛行機に乗りました。

ミャンマーからインドへ抜けられないため、この区間は飛行機に乗らざるを得ないのです。猿岩石も乗っていました、たぶん。

 

ガルフエアーというどこの国のキャリアなのかさっぱりわからない航空便にて4時間ほどのフライト。コルカタ着はお昼ぐらいでした。

はじめてのインドです。戦々恐々の僕でしたが、空港を降りた途端にすでにひどいことになっていました。空港から出て来る客を取って食うべく手ぐすねを引く何千人単位の雲助たちがロビーに溢れかえっていたのです。

どいつもこいつも客を逃してなるものかと殺気立っています。

『歩き方』によれば、空港オフィシャルのタクシー紹介窓口がどこかにあるはずなのですが、この様子では探すことも不可能です。とりあえずあちこちから伸びて来る手を振り切って前に進むのが関の山です。

田舎でポルポト派が内戦をしていたころのカンボジアのほうが、空港に関してはまだ秩序があったような気もします。

とりあえず、できるだけ自己主張をしない、大人しそうなオジサンドライバーを見繕って捕まえます。

「電車の駅まで。オーケー?」

うんうんと調子よく頷くオジサンに案内されて空港の前に停まっていた黄色のアンバサダーキャブに乗り込みます。

すると、オジサンは1枚の紙を見せるのです。

紙にはコルカタ市内各所への料金が書いてありました。しかも相場の3倍ぐらいの値段が書いてあるし。

「いやいやいやいや、高いってば」

コルカタの空港から市内までは10数キロメートル。バスやタクシーでの移動が一般的らしい。乗って行ってもおそらく千円ぐらいのはずなのですが、僕は空港から近い鉄道の駅まで行こうとしておりました。そのほうが安上がりだと『歩き方』に書いてあったのです。

「すぐそこの電車の駅まででいいから」

オジサンはしぶしぶ車を出します。1~2㎞走って空港の敷地の外へ出たあたりで再び車を停め、さっきの紙を投げて寄越すのです。

「だから市内まではいいんだってば!」

ここなら断れないと踏んでここまで走って来たのでしょう。小賢しい。

頭に来たので金も払わずに車から降り、バックパックをかついで道を歩き出します。空港の外へ出てしまえばこっちのもんだとでも思ったんだろうが、その手に乗るか、バーカ!

タクシーはしばらく僕のあとをノロノロとついて来ていましたが、その様子を見ていたらしいもう一台のタクシーが目の前に停まりました。

運転手は少しうさんくさい感じの痩せた若い男です。

「ミスタ、どこまで?」

「電車の駅まで行きたいんだけど」

「オーケー」

僕は新しいほうのタクシーに乗り込みました。

 

すると、今度の運転手も僕に何か紙を手渡すのです。見るとさっきの運転手から渡されたのと同じ、コルカタ市内各所への運賃が書いたものでした。

「だから電車の駅に行けっていってんだろうがぁーっ!」

これまでの人生で人に対して怒鳴ることなんてほとんどなかった僕ですが、これは頭に来ました。ついつい大声モードになってしまいます。そして、そんな自分にもちょっとコーフンしています。

運転手も負けじと何か怒鳴ります。あわやつかみ合いになりそうになりますが、思いとどまったのかいきなり運転手はプイっと前を向くといきなり車を走り出させました。

急発進、急ハンドルとかなり荒い運転です。車が揺れるたびに後部座席の僕もバックパックどと右に左にとぶつかります。

 

数キロも走ったでしょうか。やや繁華な街中で運転手は車を路肩に寄せ、後ろを振り向いて僕にかんで含めて言い聞かせるようにこう言うのでした。

「だんな、実は今日はお祭りで電車は運休なんだ」

絶対今考えた嘘だろ、おまえわぁあああーっ!

おいでやす小田ばりのツッコミをかましたくなります。

 

しかし、運転手は見てみろとばかりに目の前の電車の高架を指さすのでした。

いや、たしかに今は電車、走ってないけどさあ。運休だなんてどこにも書いていないじゃん。信じるわけには行かない。

無言のにらみ合いはしばらく続きます。

 

いい加減に疲れた僕は妥協案を提示することにしました。

運転手が出した料金表を手に取って、そこに書いてある値段の半額で交渉してみたのです。運転手はブツブツ言っていましたが、最後にはしょうがねえなあ、というような素振りで承諾しました。

 

タクシーがコルカタの有名な安宿街、サダルストリートに着いたときにはもう夕方になっていました。

(続く)

 

 

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