イスタンブールの新市街で声をかけてきたピーボと名乗る若い男。
彼に誘われるままに友人のバーだという店へ。しかし、その店はどう見ても日本でいうところの高級クラブで、まさにガイドブックに載っているクラスのベタなぼったくりっぽいのですが……。
僕はピンチに直面したときは『とりあえず、なすがまま』これがモットーです。 どんなふうになっちゃうんだろう?オレ。そういう感覚が好きなのかもしれません。
ネタにもなるし(笑)
最近は面倒くさいんであらかじめ回避することも多いんですが、貴重品も持っていないことだしちょっと乗ってやろうと思いました。
すぐに二人の女のコが僕たちのテーブルへやって来ました。
僕の隣に座ったコは黒のノースリーブに黒のタイトスカートの背の高いコ。
久しぶりに間近でみる白くてしっとりした女の柔肌。眉毛が金髪なので偽パツキン外人ではありません。
ピーボが「せっかくキレイな女のコがいるんだ。シャンパンをオーダーしようよ」と言います。店を入る前に、彼からシャンパンは10ミリオン(700円ぐらい?)と聞いていたので、僕に異存はまったくありません。
シャンパンが運ばれてきて、4人で乾杯しました。
僕の隣に座ったコ、はウクライナから出稼ぎに来たダンサーらしい。
「ふだんはこの店でダンスのショーをやっているの。でも、今はラマダンの時期だからショーはできないの」
昨日から女のコのたむろするディスコや置屋を探しもとめて歩き回っても見つからなかったのは、もしかしたらラマダンで営業してなかったからなのかも知れません。
しかし、彼女(名前はニーナといいました)、よく見るとスタイルの良いこと。手足は細く長く、出るべき部分は薄手の布地を通して強烈に存在感をアピールしていて、着衣でもエロさむんむんです。
やっぱりダンサーっていいなあ。
このコみたいなのを見ちゃうと、ゴーゴーってダンサーじゃあないよなあ。何を隠そう僕の生涯の抱負のひとつは、武富士ダンサーと結婚することです。
あ、酔いが回ってきたみたいですね(笑)
「ウクライナは綺麗な土地だけど寒すぎ。ここはまだ暖かいから好きなの。それは人が温かいからかな、アナタも私を温めてくれる?」
ニーナは思わせぶりにそんなことを言いながらシャンパンを一気に呷ります。ときおり肘に押し付けられるおっぱいの柔らかな感触。 思わずビールもすすむってえもんだ。
しかし、そんな心地よい酔いも一瞬にして醒める出来事がありました。
タバコ売りがタバコやお菓子を並べたトレイを持って席にやってきたのです。
僕とピーボはタバコを持っていたのでパスしたのですが、 ニーナともう一人の女のコは餓鬼道に堕とされた地獄の亡者のように豹変して、電光石火のスピードでタバコとチョコレートを鷲掴みでかっさらいます。
思わずどん引きしてしまいました。
そしてタバコ売りに値段を聞くとなんと20ミリオン(1400円ぐらい?)。
マルボロ等輸入物のタバコでもその辺で買えば2ミリオン程度です。しかも、タバコ売りは最初、ピーボに代金を請求したんですが。「今、カードしかないから」 と、ピーボが断ったので僕が払う羽目になりました。
気になったのはそのときピーボがタバコ売りに見せていたのが、 ビザもマスターのマークも入っていない怪しいカードだったことです。だいたいクレジットカードなのか?それは。図書館の貸し出しカードとかじゃあないのか。
こいつ、やっぱり怪すぎるなあ。だいたい友達の店って言っておいて当の友達は姿を見せないし、店のスタッフ誰一人として親しそうではないのです。 警報が再び頭の奥で鳴り始めます。
ある程度予想はしていましたが、この状況でピーボが店の手のものだとしたら、 救いようのないほどベタなぼったくりにハマッたことになります。
ガイドブックに書いてあった被害例では、店に連れてきたやつが姿を消す流れです。
しばらくするとお約束どおりピーボが「トイレに行く」と言って席を立ちました。
(ええっ、そこまでベタなの?)
案の定、ピーボはトイレから戻って来ません。 連れションすれば良かったかな?
しかし、ここまでガイドブックにあった被害例どおりだと、あまりの脱力感にそんなささやかな抵抗を試みる気すら起きません。
女のコたちはすでに何本もシャンパンを空けています。
(さすがにそろそろ潮時かな……)
また1本空になったところで、ボーイがおかわりを聞きに来ました。
いたずらに坂道を転がり落ちる気もないので、とりあえず精算させます。
予想はしていたんですけどねえ。
運ばれてきた請求書を見て僕はひっくりかえりそうになりました。
お値段、何と1580ミリオン也。つまり2580000000トルコリラ(約17万円)でした……。
(続く)
※レートは2002年当時のものです。
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