スリウォン通りまで歩いてタクシーを拾います。
遅い時間になるとこのあたりのタクシーはみんな交渉になってしまうのですが、まだ時間は早いのでメーターで行ってくれるようです。行先はミシェルが指示します。
シャッターの閉まった商店が並ぶ通りや堀割ような場所の横など、見覚えのない場所を右に左にとごちゃごちゃ走るうちに方角がまったくわからなくなります。
北へ走った時間と南へ走った時間をトータルすると、どうやら北へ向かっているようで、南北を走るBTSは越えていないと思われるため、カオサンの南のほうのエリアでしょうか。もしかしたら全然違うかも。
タクシーを降りた先に人だかりがありました。公園?なのかな。敷地の中に入ると人がみっちり詰まっていて、身動きすらできない状態です。初詣の明治神宮並みの人の密度です。規模は全然ちっちゃいけど。
人の流れにまかせて移動するしかありません。はぐれないようにミシェルの手を握ると彼女も強めに握りかえしてきました(ぽっ♡)。前がどうなっているのか全然見えません。
しばらく移動すると、人の波の先に小さな池が見えてきました。その周りを人の群れがまるで砂糖に群がるアリのようにたかっているのです。
(それにしても池、小っちゃ)
池の水面には人々が流した、いや投棄したというべきか。一面いっぱいに灯籠が流れてゆく当てもなく漂っています。池と人の数のバランスのわりに水面にまだかろうじて隙間があるのは、群衆にはただの見物人も相当数含まれているからでしょう。
やっと水辺にたどり着きました。
タバコ用のライターでバースデーケーキみたいな灯籠のローソクに点火し、ミシェルに渡します。
ミシェルは水辺にしゃがんで灯籠を水面に浮かべ、手を伸ばして池の中心へと押しやります。灯籠が他の灯篭を押しのけてなんとか30センチほど進んだところでぴたりと止まると、しばらく手を合わせ目をつぶっていました。
(横顔……キレイだなあ)
それを傍らでぼんやりと眺めているだけの僕です。
しばらくすると立ち上がったミシェルは「行こっ」と僕の手をとって、水際まできた群衆がはけていく流れに従います。
振り向くと一面に浮かべられた無数の灯籠たちが流れていくあてもなくぷかぷかと浮いていました。
ロイカトンってこんなものなのかな。〝灯籠流し〟の風情とはだいぶ感じが違うんだけど。どうもこれだと集団で池に火のついたゴミを投げ入れているような感じです。
とりあえず、明日の掃除、大変そう。
そんなくだらないことを考えていると、ミシェルが僕をじっと見ていました。
「何?」
「ねえ……」上目遣いに僕をじっと見つめるミシェル。たまらなくカワイイです。
こんな状態でお願いされたらショート5千バーツでも払ってしまいそうです(せこい)。
「カオサンへ行かない?」
そう、夜はまだまだこれからです。
(続く)
注……「ロイカトン」はタイ語表記でも英語表記でも「ロイクラトン」と読みますが、タイの人たちはRをすっ飛ばして発音するので、ここでも「ロイカトン」と表記しています。
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