「カオサンに行かない?」
本当に」あれでいいのか、よくわからないロイカトンをやったあと、ミシェルから可愛くお願いされてしまいました。僕としては、このままナナのホテルへ直行するつもりでしたが、もちろん異論はありません。
またタクシーを拾うのかと思いきや、ミシェルはおもむろに人気のない夜道を暗いほうに歩き出します。どうもこのまま歩いて行こうとしているようです。
けっこう歩きました。20分くらいでしょうか。
季節は日本なら晩秋の時分ですが、バンコクなんでうっすらと汗がにじんできます。
そうやってようやく着いたカオサンです。時間もかなりいい感じの時刻なので、そこここの店でライブがやっており、道にまで並べられたテーブルにはファラン中心のお客さんたちが飲んだくれて大騒ぎしています。あちこちでやっているライブの大音響で音の洪水みたいな状況です。
ミシェルなどこか当てがあるようで、僕の前をつかつかと歩いていきます。
するとおもむろに振り向いて言います。
「妹が来ているらしいんだけど、一緒に飲んでもいい?」
よくタイガールたちが言う妹と呼んでいる他人ってやつですね。
もちろんOKします。
ミシェルは携帯を取り出すと、誰かと話しながら歩いていきます。おそらくその〝妹〟と話しているのでしょう。やがて、立ち止まって大きく手を振ります。
見ると10mほど先の路上に置かれたテーブルで手を振っている黒いロングヘアの美女がいました。細面ですらりとしています。座っているのでよくわかりませんが、おそらくかなりの長身ではないでしょうか。もちろんミシェルにはまったく似ていませんw
しかし、あまり面白くないことが一つ。
ロングヘア美女の傍らに小柄な若いファランが座っていたのです。
客……なんだろうな。まあ、さすがに両手に花とはいかないか。
僕たちは二人と向かい合うかたちでテーブルにつき、僕はビールを、ミシェルはバカルディブリーザーを注文しました。
「妹のプー。プー、こちら私のハニーのゴーゴーよ」
ハニーとか言われて少し鼻の下が伸びるのを禁じ得ない僕です。
「ヨロシクオネゲシマス~」プーは多少は日本語もいけるようです。やっぱり夜の商売なんでしょうね。
「ミシェル、ゴーゴー、こちら、私のハニーのカールよ」
プーが隣に座っているファランを僕たちに紹介すると、カールは黙って僕たちに目礼しました。座っていてもプーよりかなり小柄なのがわかります。まあ、プーがたいがい大きいんですが。
「どこから来たんですか?旅行者?」
「ドイツ。仕事でバンコクに来てこっちに住んでいるんだ」
第一印象では貧相な感じだったカールでしたが、しゃべるとけっこうナイスガイのにおいがします。
自己紹介が終わるとプーとミシェルは僕たちをほぼそっちのけで二人だけで何やら話し込み出しました。取り残された僕とカールは二人で話すしかありません。
女性のほうだけが知り合いのWデートみたいな感じになっていてまあまあ気まずいです。こういう場合って、お互い自分の相手にしか関心ないですし。おそらく二度と会うこともないでしょうし。
「こっちに来てどれぐらい?」
「まだ2か月。今日初めてゴーゴーに行って彼女に会ったんだ」
なんだ、ペイバー即の関係じゃん。だったらまだ僕とミシェルのほうが深い仲ってことだな。全然深くないけどw
そんな他愛もない5分後には忘れてしまいそうなトピックで、僕らは場をつなぎ続けるのでした。
夜はまだこれからです。
(続く)
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