ミシェルと僕、彼女の〝妹〟プーとその彼氏(客)のカール。
カオサン通りのオープンテラスというか路上のバーでのWデートです。
ミシェルとプーがすっかり話し込んでいるので、初対面で微妙な空気の僕とカールはぎこちなく会話せざるをえない状態です。
仕事でバンコクへ来て2か月だというカールはこの日、パッポンのゴーゴーで初めてプーに会ったといいます。
「ゴーゴーバーという場所には初めて行ったんだ」
ビールが回って来たのか、最初あんなに大人しかったカールがいつの間にかすごくアツくなっていました。
「驚いたよ。あんな場所だったなんて。でも、もっと驚いたのは彼女のような天使に出会えたことだよ」
そういって、プーを熱いまなざしで見つめるカール。当のプーは相変わらずミシェルとのおしゃべりに夢中で僕らのことなんか見向きもしません。二人を見つめる僕の視線に気づいたのか、ミシェルがニコッと少し口角を上げてくれました。
やっぱりミシェルは違うなあ。
しかし、プーに関しては僕は少し気になる点がありました。顔がやけにキリっとしていて男前なのです。たしかにそういう男顔の女性っていますけど。
以前に書いたかも知れませんが、僕はLBと相対したとき、必ずそのコの男性としてのビジュアルを想像してしまいます。その男としての彼女のビジュアルが完璧に描けてしまうのです。
プーはクールな感じの美人です。そういう色眼鏡で見なければ、何の疑いもなく女性として見るでしょう。
しかし、僕もタイに通い始めて数年以上になります。接する女性はいちおうそういうフィルターにかけるのが習性になっています。
そして、一度彼女をそういう疑惑の目で見てしまうと、女性にしては広い肩幅や低めの声などどんどん気になるところが出てきてしまうのです。
(どうしよう。浮かれまくっているカールに教えてあげるべきか…….)
しかし、何か確証があるわけでもありません。なので僕はカールには黙っておくことにしました。
では、その友達のミシェルも怪しいのではないか?
しかし彼女は声も高いし、女性っぽい可愛らしい顔立ちなので男性ビジュアルも浮かびません。
(まあ、友達がLBだからって本人もLBとは限らないよな……)
僕はミシェルとシンガポールでそういう関係になっています。窓のない、電灯を消すと真っ暗闇になる部屋でのことでしたが、違和感はまったくなかった気がします。
(そうだ、今夜確かめればいいんだ)
疑惑を晴らすためにも必ず確かめよう、そう僕はひそかに心に誓ったのでした。
やがて、Wデートはお開きになり、僕とミシェルはタクシーでナナへ、プーとカールも一緒のタクシーでいずこへと消えていきました。カールがショックで立ち直れなくなるようなことがないよう、祈るばかりです。
さて、ダイナスティ・インに戻って来た僕とミシェル。
一緒にシャワーを浴びようすると拒否されてしまいました。
仕方なくミシェルが先に、僕が後という順番でシャワーを浴びます。シャワーから出てくると部屋の明かりがすべて消されて真っ暗になっていました。
ベッドサイドのスモールライトさえ消され、完全な闇。目を凝らすと何とかミシェルがベッドの中に潜り込んでいるらしいのがわかります。
「ちょっと明かり点けない?何も見えないよ」
「のぉ~~。恥ずかしいの……」
結局、また真っ暗闇の中でコトをいたしました。その後、2~3日間ミシェルと一緒にいましたが、そのときは常に暗闇の中でした。
バンコクから日本へもどったその後、ミシェルと会うことはありませんでした。
そんなもやもやが晴れたのはわりと最近のこと。
何かの拍子に当時のミシェルの写真が出てきたのです。
その写真を見てまず思ったこと、それは「なんだ、男じゃん」ということでした。
何で当時はそう思わなかったんだろう?不思議です。
じゃあよく考えるとカオサンでのWデートは単なるおっさん4人の飲み会だったってことになりますね。
はたから見て、どう思われていたんでしょうか。
(おわり)
バンコクから帰国した僕は、なんとか元の職場に戻ることができました。
ですので『よるのたび』はひとまずここで終わります。
ここまで読んでくれた方、ありがとうございました。
近いうちに「番外編」をやるかも知れませんので、よろしくお願いします。
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