『Pin-up』で席について数分後。
見つけるのは絶望的と思われたこの人込みの中から、トゥーはあっという間に僕を見つけ出してすっ飛んで来ました。走って来た方角と距離から推定すると、昨夜と同じあたり、つまり今僕が座っている場所の真反対から来たものと思われます。その間にはステージ上にぎゅうぎゅう詰めになったゴゴ嬢たちが数十人いるわけで…。一体どういう目をしてるんだろう。
「もう来ないかと思った」それ、サバ折りだろうとツッコみたくなるぐらいの力でトゥーは僕にギューッと抱きついて来ました。
「そりゃあ来るよ。そう言ったでしょ」
「でも、だいたいみんな来ない」
一瞬、他のコに乗り換えようと思ったことなどおくびにも出さずに、僕は真面目な顔で答えます。
会ってしまったら仕方がありません。二人で乾杯して、少し話したあと早々にペイバーします。バーファイン1000、ショートが3000。まとめて店に払うシステムだったかどうかは覚えていません。
しかし、しばらくペイバーしていないうちにずいぶん高くなりました。
3~4年前にも別の店でペイバーしているはずですが、こんなもんだったかなあ?
毎日ペイバーなんてしていたら相当お金を遣ってしまいそうです。
着替えてきたトゥーはTシャツにデニムのスカートという、小学生の女のコのような服装でした。まあゴゴ嬢こんな感じのコ多いですけど。
相変わらずお客よりも客引きのほうが多いウォーキングを歩きながら、「どこか行く?」とトゥーに聞くと「Up to you」と、これまたありがちなお答え。
でも、「お腹は減ってる?」と聞くと「減っている」と答えるあたり、なかなか素直。
僕も、お酒は飲みたくないけどホテル直行もつまらないなと思ったので、ウォーキングのアーチからすぐの場所にフードコートのようなものがあったのでそこに入りました。
オープンエアの席に座り、僕はカオパット、トゥーはサラダを注文します。
「あまり辛くない」と文句をいいながらも、彼女はぱくぱくとあっという間にたいらげました。インゲン豆っぽい短い棒状の野菜は「嫌い」だと言って片っ端からはじくので僕が食べましたがそれ以外はきれいに食べました。
あくまで個人的な印象ですけど、食べ方がキレイなコってゴゴ嬢には少ないような気がします。とりあえず僕がこれまで一緒に食事をした中では残し方が汚いコがけっこういました。なのでトゥーへの好感度はアップです。
「私、魅力ないでしょ? だからあまりペイバーされたことなくて。だから、今日あなたが来てくれてとても嬉しかった」そんなことを彼女は言います。
たしかにあれだけゴゴ嬢を抱える『Pin-up』では彼女は決して目立つ存在ではありませんでした。顔立ちはけっこうキレイなのですが、あくまでカワイイ系。スタイルも凹凸が少なめでどちらかというとやっぱり地味なので、派手派手なゴゴ嬢たちの群れの中ではモブ同然になってしまうのでしょう。
僕もステージに彼女がいたら声はかけなかったと思います。
少ししんみりしてきたので空気を変えようと「じゃあ、そろそろ行く?」と言ってみます。すると、トゥーは「Yes!」と椅子から元気に立ち上がって片手を上げます。
そういうとこ、本当に子供みたいなんで可愛いんだよなあ。
僕たちは店を出てホテルへと向かいました。
(続く)
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