「ナンをホテルに連れて帰ってあげてよ」
ゴイから思いがけない言葉をかけられた僕は一瞬フリーズしてしまいました。
当のナンはじゃんけんゲームの激しい戦いの果てに寝てしまっています。
彼女が踊りたくないと言うのでペイバーはしましたが、今夜僕は深夜にホテルをチェックアウトして空港に行かなければならないのです。
どうせ時間もないので、この夜はここでナンとはお別れするつもりでいました。
それが酒好き男好きでジャイアン気質のゴイにそんなことを言われるとは。
昨夜、腹黒ノイにも同じようなことを言われたし。そうやって他の女性の世話をするのが似合わない(業務としては毎日やっているんだろうけど、僕はやられたことがない)2人がこぞってナンを僕に押し付けてくるって、何かあるんだろうか。
なんだかいろいろと勘ぐってしまいますが、ゴイがそこまで言うのであれば仕方ありません。ふらふらしているナンを連れてホテルの部屋へ戻ってきました。
現在の時刻は2時すぎ。シャワーを浴びて着替えて荷造りをして4時までには何とかホテルを出たいところです。
まあ、頑張ればやることもやれないわけではありませんけどね。かつて「too fast」なんて言われたこともある僕ですしw でも、やっぱり心の余裕がないといろいろと支障が出てくる場合もあるのでw
部屋に入るととりあえずシャワーへ。汗を流したところで数日間の滞在で部屋じゅうあちらこちらに散らかりまくった荷物をまとめ始めます。
僕がドタバタしている間、ナンはベッドに座ってTⅤを黙ってみていました。
ナンに肩を揺さぶられて目が醒めました。
時計を見ると4時です。どうやら荷造りが終わって一息ついたところでそのまま寝こけてしまったようです。
TⅤはついたままでした。どうやら彼女は僕を起こすためにずっと起きていてくれたみたいなのです。うわあ、いいコやん。
しかし、そんな感慨に浸っている暇はありません。僕は急いで用意してあった服を着て荷物を持ってナンと一緒に部屋を出ました。
ダッシュでチェックアウトを済ませ、ホテルの敷地の外まで出て流しのタクシーを拾います。幸いすぐにタクシーが来たのでナンに別れを告げて乗り込みました。
高速道路で車窓を流れていくまだ薄闇に包まれたバンコクの街並みを見ながら、いろいろと今回の旅行に思いをはせます。
今回の訪タイは最初から最後までナンと一緒の日々でした。
着いたばかりのクリスマスの夜、4度目の正直でようやくちゃんと一夜を共にしたこと。翌日の昼間も一緒に過ごしたこと。2連泊したこと等々……。
ビリヤードをした夜に何やらワケありな電話をしている姿を見てしまったことも。
(あれは何だったんだろう。あんな感じの彼女は初めて見たな…)
と、そこで僕は大事なことを忘れていたことに気づきました。
(うわ。またナンにお金を渡すのを忘れた!)
ホントに彼女には迷惑かけています……。
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