一人寝の夜を過ごした翌日──。
この日は今回の訪タイの最終日でした。
夜はこの日からタイに来る知人とソンブーンで食事しました。
その後は近場のパッポンのゴーゴーへという流れに。
キングス系の店あたりに入ったのですが、入った途端に女のコが普通に横に座ってコーラを注文するという山賊のような営業でした。
まだこの頃のパッポンはひどかったです。結局ナナへ、そしてR3へという流れに。
R3にはナンがいて、当たり前のようにペイバー。ここで知人とは別れて普通にホテルへ帰ります。
ナンは「昨日はごめんなさい」というだけで、それ以上とくに説明はありません。
会ったらいろいろ聞いてみようと昨日の段階では思っていた僕ではありますが、何か彼女がそういう感じだとそれ以上ツッコめない雰囲気もあります。
結局、僕のほうからは昨日なぜ途中で帰ってしまってその後戻らなかったのかということを聞き出すことはありませんでした。
まあ、いま彼女が側にいてくれているだけでいいかな、と。
翌朝は6時にはホテルを出るつもりでした。なんだかんだ言ってそういう時の僕は絶対に寝過ごすことはないので、保険のつもりで6時にモーニングコールをホテルに頼んでいました。もちろん荷造り等は前夜に済ませています。
5時半にナンに起こされました。やっぱりすっかり寝入ってしまったようです。
確かやることをやったあとにナンが横でテレビを観ていたのは覚えています。
時間はたぶん夜中の1~2時ぐらいだったと思われます。
僕が起こされたとき、テレビはまだついたままでした。
前回もそうでしたが、彼女は僕を時間に起こすためにずっとテレビを観ながら起きていてくれたようです。
ふだんはあまりしゃべることもなく、自己主張も少ないナン。
R3ではよく「踊りたくない」と言ってペイバーをせがんできますが、それ以外に僕に要求することといえば「お腹空いた」と「ビリヤードしたい」ぐらいです。
そんな一見クールな感じの彼女ですが、こういうふうに朝が早い僕のために寝ないでずっと起きているような献身的な一面を見せることも多々ありました。
おそらくはチップを期待していたであろう場面で何もあげずに帰してしまった僕に対しても、さほど怒ることもなく接してくれるなど、情の深いコだったんだなと思います。
そして、この当時のR3での僕は毎晩泥酔していて、そんな彼女に甘えるように彼女に対しては失礼な仕打ちをかなりしてきました。
前回の最終日はチップあげるのを忘れて日本に帰っちゃったし。
昨日は結果的にデートの途中で帰られてしまいましたが、そんなことをされても、ちっとも僕は怒る筋合いのものではないのです。
もちろん「愛してる」とか、そういう甘い言葉は口にしませんが、彼女の僕に対する〝愛〟みたいなものを感じるときはあります。それが何に対しての愛かまではわかりません。恋人への愛というよりは、もっと大きなやつのような。
前夜に準備は万端にしていたつもりが、結局チェックアウトするまではかなりバタバタしてしまいました。結局ホテルを出たときには予定の時間をかなり過ぎてしまいました。一刻も早く空港にいかなければなりません。
「じゃあ……またね」
ホテルの前でナンとお別れです。前回はまるっと忘れていましたが、今回はちゃんとチップを渡さなければ。
しかし、財布をひらくとお札が少ししかありません。思っていたよりも昨夜R3で遣ってしまったみたいです。
「ごめん、今これしかないや」
財布に入っているお札から空港までのタクシー代400Bを除いた数100Bとポケットの小銭すべてを彼女に渡しました。
「これだけ?」
彼女は怒るでもなく無表情にそれを受け取ります。
「日本着いたらあらためてまとまった額を送るからさ、携帯番号教えてよ」
そう言ってみましたが、彼女は黙ってかぶりをふるばかりでした。
仕方がない、次に会うときにあらためて払おう、そのとき僕はそう心に誓ってナンと別れました。
しかし、彼女と会うのはそれが最後となってしまいました。
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