市野澤潤平氏著『ゴーゴーバーの経営人類学』の内容をときどき感想などもはさみつつ紹介しています。
今回はまずはケーススタディから。
【ケース2】
ある夜、著者がナナプラザのある中規模店にいると、ステージ前のカウンター席に座っていたファランが目の前で踊っていたダンサーを手招きした。
ダンサーはしゃがみ込んでファランと話していたが、やがて顔の前で手を横に振ると、さっと立ち上がって踊りに戻った。
著者が眺めていると、ファランはまた女のコを手招きする。今度はドリンクを買ってあげたようで、ダンサーは再びしゃがみこんで、コーラを飲みながら話していたが、ものの数分でダンスに戻ってしまった。そして両脇に立っている同僚たちと何やら笑いながら話している。
ファランはまた女のコを手招きするが、先ほどのダンサーは動かず、隣にいた同僚の肩を押して相手をさせた。そのダンサーも数分話しただけで立ち上がり、また仲間同士で何やら話して笑っている。
もう一度ファランが手招きしても、ダンサーたちは誰も行こうとせず、互いに押し付けあっている。
ファランは気分を害したようで店を出て行ってしまった。
著者がダンサーの一人を呼んで、何があったのかを尋ねると、ファランはダンサーにオールナイトで1000バーツというオファーを出していたのだという。
彼女たちにしてみれば、それは不当に低い額だったのできっぱりち断ったという。オールで2000バーツ以下の値段は人を馬鹿にしているので、そのような申し出があったら、価格交渉以前に相手にしないのである。
商売をするうえで危険を回避することは重要ですが、それよりもさらにゴゴ嬢たちにとって大事なのは〝儲けること〟です。
ここからはそんな彼女らがどんな思考のもとに行動しているのかを見ていきます。
⑱などで説明したように、男性客がSEXの際にゴゴ嬢へ支払う額は、ショートで1000~2000バーツ(当時)など、ある程度の相場が決まっています。
ゴーゴーを訪れるお客はボッタくられないように相場を予習しているので、ゴゴ嬢が吹っかけることは不可能です。彼女らはポジティブ思考なのでダメもとでとんでもない値段を請求してくる輩もいますが、99%即却下されます。
したがって「一般論としては単純な性交渉1回あたりの料金のつり上げには限度があるということだ」と市野澤先生も言っています。
そのため「1発あたりの料金が決まっている」➡「回数こなさなきゃ稼げない」ということに。
ゴゴ嬢が回数を増やす戦略としては、1回あたりの値段を大幅にディスカウントしてでもお客を逃がさないという戦略もアリです。
しかし、実際には彼女らが大幅な値下げをすることは滅多にありません。とくに一定以下の値段になった場合は取引を失うことになっても【ケース2】の例のように男性客に肘鉄を食らわすのです。
市野澤先生はその理由について「これは経済的な利害計算からというよりは、すぐれて社会的・心理的な関心によるものである」(『ゴー経』より)と解説しています。
つまり、あまりにも値下げしまうことは、ゴゴ嬢の自尊心を傷つける行為なのです。
その価格でやらせてしまったことが同僚に知られると「あのコ、あんなに安くやらせたのよ」って感じで本人が恥ずかしい思いをする、それをゴゴ嬢たちは極度に嫌うのだといいます。
確かに冗談で100Bとか言うとキレるコはけっこういますよねw
よって、SEXで稼げるお金は高く吊り上げることも安売りすることもできません。
したがってバーガールがより多く〝本数〟をこなすには、ディスカウント以外の戦略をたてなければならないということになります。
次回はそのあたりを。
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