『老いて男はアジアをめざす』最終回です。
ロングステイヤーの中には少ない貯金でかつかつで暮らしている人たちも少なくありません。そんな人たちにとって、年々物価が上昇しているタイは必ずしも住みよい場所ではなくなっているようです。
また、一度国外へ出ればビザの期間を延長できるビザランへの取り締まりも年々厳しくなっているといいます。ただし、この話は現在でもちょいちょい聞くので、厳しくなるぞと言っている割には何とかなるのかも知れません。でも、そんないついられなくなるかという不安に駆られる生活はヘビーですよね。
そんな理由でタイに住みづらくなった人たちが目指すのはカンボジアだといいます。
北タイで小児を買っていた人たちもタイ当局の取り締まりが厳しくなったので、皆さんカンボジアに移動したと言われています。
ある人はこんなことを言ったそうです。
「私がこの国に来たばかりの頃、とにかく判を押したように身の上話を根掘り葉掘り聞かれました。日本で何をしていたのか?なぜこの国にやってきたのか?みんなが私が何者であるか知りたがったのです。初めは理由が分かりませんでした。でも、今はよくわかります。この国にやってくる人の多くは訳ありなんです。過去を知られたくない。だからみんな適当な嘘をつくのです。(略)墓場まで持ってゆく秘密を抱えている人がいっぱいいるのです」
そんな国って、どうよ?
中でも正体のわからない人たちの吹き溜まりのような町がシアヌークビルだそうです。
そんな世捨て人たちが暮らすアパートを誰が名付けたか「チロリン村」と言うのだとか。住人の正体は一説にはかつてバンコクで悪名を轟かせていたジュライホテルの残党だというのです。
著者が訪ねた「チロリン村」はかつてジュライホテルにいた日本人高齢者が暮らす6部屋のアパートでした。ケーブルテレビ一回線を6人でシェアし、高齢者たちは暗い部屋で食い入るようにNHKのニュースを見つめていました。
同じ町でゲストハウスを経営していたのは高倉さん(58・仮名)。シアヌークビルは美しいビーチリゾートでもあります。
日本で経営していた会社を整理して放浪の旅に出た高倉さんはシアヌークビルで真っ青な海を見て「この町に住みたい」と思ったそうです。だらだら過ごすのにも飽きたので空き家を改造してゲストハウスを開業したのだとか。
しかし、この高倉さん、何か様子がおかしい。
理由を聞くとトラブルを起こした客のフランス人から「殺す」と脅かされているらしい。子供2人を連れ込んだので追い出したのだけど、それは高倉さんをここから追い出そうとしているオーナーの陰謀だと言うのです。
唐突には信じがたい話に著者は困惑し、ホテルを出る決心をします。
2年前の高倉さんの写真と現在の彼の風貌があまりに違って、険のある顔つきになっている点も気になりました。
どうやら大麻も嗜んでいるようです。高倉さんは本当に壊れてしまったのでしょうか。
90年代は「幻の国」と言われたカンボジア。08年頃も田舎はその当時の雰囲気が残っていたようです。
タイよりも物価が安いといわれるカンボジアですが、食堂の飯代など物価はタイとそれほど大差はないようで、むしろタイのほうがクオリティは良い、と著者は書いています。
交通インフラもなく、バイクやタクシーで移動するしかないので高齢者にとって安住できる土地とはいいがたいようです。
ただ、モノがないのと周りがみんな貧乏なので、貧乏暮らしに抵抗がないのだとか。そんな生活、嫌ですよねえ。
まあ、これはあくまで08年の状況です。それから12年、カンボジアもかなり発展したのではないでしょうか。僕も20年近く行っていないのでわかりませんが。
確かに何もない焼け野原みたいな場所だから、何か始められそうな気はすごくする場所です。何も始められないんだろうけどw