再びタクシーに乗り、Y氏、Sクン、僕の3人は街の中心部に移動しました。
店がたくさんある繁華街っぽいエリアで車を降りると、その中のまだ真新しいビルの地下へかつて知ったる足取りのSクンを先頭に入って行きます。入って行ったのは地下にあるクラブでした(アクセントは〝ク〟のほう)。
ふかふかの絨毯が敷かれたフロア、ほどよく店内を暗く保つ間接照明。
女のコたちはみんなセクシーなアオザイ姿。上品なインテリアといい、紛れも無く高いお店に違いありません。日本で言えば銀座の高級店といったところでしょうか。
案内されたソファに身を沈めると揉み手をしたママが女のコ数人を従えてやってきて、僕たちの席に座りました。
まあだいたいこの手のお店は日本人御用達なわけで、 日本語をしゃべれるコもけっこういます。僕の隣に座ったのは瞳の大きなペコちゃんみたいな21歳の女のコでした。
「ベトナムでは昔は家庭を守るのが女性の役目だったんだけど、最近は女の人も結婚しても仕事を続ける人が多いの。でも、私は早く結婚して家庭に入りたい」
と、彼女の理想の結婚生活について、ひとしきり聞かされました。
さすがにこのお店では乳を揉んだりはできないみたいですが、Y氏もSクンも隣の女のコにぺったりとひっついています。
僕も、ここでもフルーツを食べさせてもらったりして、ペコちゃんとなかなかいいムードに。
タニヤだったらオフしちゃいそうな良い雰囲気です。この店ってそういうの、できるんだろうか。
しかし、Y氏は不意に立ち上がったかと思うと、無情にもこんなことを言うのでした。
「じゃ、次行きましょうか」
徒歩で向かったのは日本料理店。
老舗旅館のような間口の広い三和土のある玄関で靴を脱いで上がると、キレイな畳の座敷に通されました。『半沢直樹』で香川照之らが悪だくみをしそうな個室です。
メニューはたぶん海外だとこういうほうが逆にレアなのかもしれません、煮込みや厚揚げの焼き物や和え物のような居酒屋メニューが出てきましたが、すでに10時間ちかく飲み食いしっぱなしなのでみんなお腹いっぱいです。
後日談だとY氏はこのへんから記憶がなかったらしい。何となく会話のテンポもスローダウンしてきました。みんなおねむのようです。
さっきまで一生懸命Y氏をヨイショしていたSクンも、ベトナム人の奥さんが待つ家庭へそろそろ帰りたそうです。僕もぼちぼち限界。
いちおうお開きということで、店を出ることに。
Sクンに見送られY氏と二人で三度タクシーに乗りました。
しかし、すでに前後不覚となったY
氏、もう歯止めが利かなくなっていたのです。
そういえば、こいつ、酒乱の気があったような気が……。
飲み会といえば必ずどこかで血の雨が降っていた僕たちのサークルで、Y氏ふだんは酔って乱れることもなく、〝いい人〟で通っていました。しかし一度だけガチで酔っぱらって女性マネージャーを両脇にはべらせてすっかり場を仕切って同期や後輩たちに次々と無理難題をふっかけては出来ないとバチボコに飲ませるという豹変ぶりを見せてみんなを驚愕させたことがありました。
大人しそうな風貌の陰に強い自我と確固たる信念を隠し持った彼の素顔を物語るエピソードでもあるのですが、やっぱりただの酒乱だよな。
そんなY氏のクレイジーな部分がそろそろ顔を覗かせてきたたみたい。
何事もなかったかのようにY氏は僕に向かって言います。
「じゃ、次行きましょうか」
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