(05年夏のお話です)
R2の仇をR3で、と思ったわけではありませんが、R2で嫌な思いをしたあとでなんとなく初めてR3に入ってみました。
分厚いカーテンをかき分けて店内に入り、0.5秒で後悔しました。
いきなり目に飛び込んできたのはR2より一回り小さいステージで5~6人のゴゴ嬢がやる気なさそうにバーにつかまってゆらゆら揺れている光景でした。
その、浜辺に打ち上げられる寸前の藻屑のような生気のなさときたら。
しかもパッと見年齢こそ全員妙齢っぽいですが、目を引くような美人は一人もおらず、モブにしては顔面の主張が強い人たちばかりです。
客席はポツポツお一人様のファランが何組かいるだけです。
暗い気持ちで案内されるままに席へ。
オーダーしたハイネケンを飲みながら、これを開けたらとっとと『MANDARIN』へ行こうと心に誓っていました。
しばらくぼんやりとステージの上の藻屑たちを眺めながら、ぼんやりとハイネケンを飲んでいると、若いウェイターが話しかけてきました。
「ユー、ライク、レイディ?」
小柄で髪を七三分けにした童顔の少年です。彼は(どれでも選び放題だぜ)とでも言いたげに大げさにステージを片手で指し示しめすポーズ。
ただでさえ小柄な体躯で童顔なのに髪をきっちり分けているせいで、七五三のようです。そんなちびすけが店長よろしく偉そうに女のコを選べと言っているので何か可笑しく、つい顔がほころんでしまいました。
何かウケたと思ったのか少年はさらに(このコ?それともこのコ?)とでもいうようにステージ上の藻屑嬢を一人一人手指して見せます。
「ノー サンキュー」僕がかぶりをふると、さもありなんという感じでニヤッと笑って側に寄ってきて耳元でこう囁くのです。
「トゥデイ、ノーカワイイ。皆出かけた」
そんなことを言う従業員は初めてです。選べないような女のコしかいなくても、しつこくペイバーしろと迫るのが通常のパターン。良心的なやつでもせいぜいお勧めしない程度でしょう。それよりまだ10時前なんだけど。もう売り切れ状態ってどういう店?
「だからオレと飲む」少し冗談めかして少年は言います。
僕は何だか少し面白くなって「OK」と承諾すると、彼は嬉しそうに飛び跳ねると、いったんバーカウンターのほうに消えます。そしてハイネケンを両手に戻ってきました。
「おかわりね」そう言って僕の前に1本置きます。確かに最初頼んだやつは4分の3ぐらい空いてるけど。これ空いたら出ようと思っていたのになあ。しょうがない、こいつに少しつき合うか……。などと思いつつ、何気なく伝票を見ると1本ぶんしかついていないではないですか。一体どうやって?…っていうかなぜ?
そう思いつつも少年と乾杯しました。
少年の名はヤム。イサーン出身の19歳だそうです。よく見ると妙に目がキラキラしていて女っぽいし、声が決定的に〝宝塚の男役みたいな声〟なのですが、小柄ながら体格はわりとカッチリしていてよくわかりません。こういう女もいるよなあ、って感じ。
当時の僕はトムと呼ばれる連中の存在は知りませんでした。でも、あれだけLBが闊歩しているんだから女版もいるよなあ、ぐらいの認識はありました。
ヤムと飲んでいると平均年齢30歳ぐらいのウェイトレスたちがわらわらと寄ってきました。口々にドリンクをせがみますが、ヤムはここはオレの縄張りだ、とばかりに怒鳴っては追い返します。
ステージにいない藻屑嬢たちは、店の反対側の隅から遠目にこっちを見ていますがなぜかまったく近寄って来ようとしません。
僕は何だかすっかり気分が良くなってヤムにハイネケンをさんざん飲ませ、僕もさんざん飲んで、その間ヤムと何を話したのかまったくわかりませんが、酩酊状態でホテルへ戻ったのでした。時計は12時を回っていました。