僕たち3人は相変わらずホテルの廊下に並べた椅子に座らされています。
数メートル離れた場所でスタッフによる金髪LB(美人)への聴取がずっと続いているのです。
涙ながらに大げさな身振り手振りでスタッフに何事かを訴え続けている金髪LB。
「私は何もしていないのに、突然あの人たちが襲って来たの! 私が泥棒だなんて言ってるけど、きっと私が美人だから連れ去って犯すつもりなのよ!」
とでも言っているのでしょうか。とりあえず距離もあるしタイ語だしで何を言っているのかはわかりません。しかし反論もできないのでもどかしさが募ります。
「しらばっくれてんじゃねえぞ、このクサレチ○ポがぁっ!」
Mくんがキレて立ち上がり金髪LBにつかみかかろうとしますが、僕たちの傍らにいたスタッフに制止されます。
え、Mくん、チ○ポって……;;;
Ⅿくんが暴れて罵詈雑言を浴びせるのはさっきからこれで3回めです。
ついに僕たちと金髪LBの間にスタッフが3人立ってペナルティキックのときのような〝壁〟を作られてしまいました。
でも、さっきから見ているけど。金髪LBを聴取しているスタッフって彼女の言うことにうんうんと聴き入っているだけで、何かを尋問するわけでもなくもちろんメモなんかを取っている様子もないんですよね。
知らない人がこの絵面を見たら、絶対に被害者はあっちで犯人はこっちだと思うでしょう。Mくんがイライラするのも分からないではないです。
でも、Mくんが暴れるとますますこっちが犯人っぽくなっちゃうんですけど。
だいたい昨日昏睡強盗をやらかしているのに、今日もしれっとこの店に来ているということは、金髪LBはここの常連でスタッフも顔を知っているに違いないのです。
金髪LBはけっこう目立つ美人ですし。ふだんあまりやることもなく女性客を眺めてニヤニヤしているだけのこいつらが覚えていないわけがありません。
それなのに、この取り調べのぬるさはどういうことでしょうか。
そう、このスタッフたちはまったくやる気がないのです。
考えてみれば店で起こったことは、Ⅿくんが金髪LBに言いがかりをつけて掴みかかったというだけです。傷害事件というわけでもありません。
そしてその原因となった昏睡強盗は店の外で起こったことだから、自分たちには関係ありませんよー、という心の声が彼らの態度を見ていると聞こえてきそうです。
僕たちは完全に持て余されています。
このままだと金髪LBにしゃべりたいだけしゃべらせて無罪放免、ということで終わってしまいそうな雲行きです。
隣のMくんもそんな場の空気を感じ取っていたのでしょう、静かに立ち上がると目の前に立っているスタッフに「ポリス、プリーズ」と告げました。
スタッフは一瞬きょとんとしていましたが、一緒に並んで立っていた2人と二言、三言相談しているようです。
「んなこと言ってますけど」
「マジで?」
「いいんじゃね? このまま居られてもめんどいし」
そんな会話があったのでしょうか(想像)。
スタッフの一人がいかにもしぶしぶといった様子でフロントのほうへと歩いて行きました。
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